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特別対談「人財と共に未来を創るNitto流ESG戦略とは」(前編)

(左から川内正直氏、守島基博教授、大脇泰人)

私たち日東電工株式会社(以下、Nitto)は、「2030年ありたい姿」として「ニッチトップクリエーターとして驚きと感動を与え続ける“なくてはならないESGトップ企業”」を掲げ、その実現に向けて、2025年度を最終年度とする3ヶ年の中期経営計画「Nitto for Everyone 2025」を策定しました。

Nittoは、市場の変化を先取りし、技術の強みを活かした環境・人類に貢献する製品やサービスを創出する中で、「ニッチトップ戦略×Nitto流ESG戦略」の実践で、“なくてはならないESGトップ企業”を目指すことを基本方針としていますが、ESGに関する経営目標(KPI)として製品系、環境系、人財系からなる9つの未財務目標を設定しています。

今回は、人的資源管理論の第一人者である学習院大学経済学部・守島基博教授と、従業員エンゲージメントや組織開発領域で業界をリードされている株式会社リンクアンドモチベーション 常務執行役員・川内正直氏にご協力いただき、日東電工株式会社 取締役 専務執行役員の大脇泰人との対談を通して、「人財に関するNitto流ESG戦略」について紐解いていただきました。

Nitto流ESGの考え方とは

川内:ESGの中でも特に人的資本経営については、取り組みの中のその企業らしさが注目され始めた企業様もあれば、まだまだ手探りの企業様もおられるかと思います。今回、御社は「人的資本リーダーズ2023」および「人的資本経営品質(ゴールド)」に選出されていますが、過去を遡ってみるとESGという言葉が一般化する以前から、ESGを意識して経営されている印象がありました。どのような背景があってそのような考えに至ったのでしょうか。

大脇:まずNittoには「新しい発想でお客様の価値創造に貢献します。」というMissionがありまして、どのようにお客様に貢献するか、またお客様をどう捉えるのか、その2つを考え抜いた結果、「地球環境や人類・社会も含めてお客様(ステークホルダー)である」、という考え方にたどり着きました。

守島:素晴らしいですね。一般的な企業が掲げる表面的なESGとは言葉の重みが違うと思います。考え抜いた結果、というお話がありましたが、しっかりと考え抜かれたからこそ、ステークホルダーに響くESGになっていると思います。

川内:最近では「非財務」ではなく「未財務」という言葉を使う企業様も増えてきていますが、御社では昔から「財務/未財務」という考え方を重視されてきたと思います。この点も御社らしさだと思いますがいかがでしょうか。

大脇:Nittoでは「未だ財務にならずとも未来につながり、財務となって利益を生んでいく」という考え方のもと、「未財務」という言葉を使っています。未財務にはESGのような環境や人財への投資が含まれます。しかし、最終的には未財務への投資が企業の財務パフォーマンスに繋がらないと、企業活動としてサステナブルでは無いと考えています。ですので、未来に向かって未財務を財務に繋げていく、その覚悟を持って、Nittoでは未財務への投資を積極的に行っています。

川内:その覚悟を持って進められている未財務に関するKPIのうち、今回人財に関する項目を3つ設定されていますが、その設定の背景はどのようなものなのでしょうか。
※人財系未財務目標に関してはこちらをご覧ください。

大脇:Nittoには、すでに海外に多くのお客様がおりますが、今後海外の市場をより獲得していくためには、会社自体もよりグローバルに変わっていく必要があると感じています。例えば、女性リーダー比率という指標がありますが、海外では管理職の半分以上が女性というのは当たり前というお客様もおられます。そのようなお客様が意図するニーズを汲み取るためには私たち自身が変わっていかないといけません。このように、あくまで経営戦略があってのESG戦略・人財戦略だと捉えています。
※リーダー比率とは、管理職の中で組織マネジメントを担う人財の割合を数値化

守島:数値ありきではなく、その数値が示す状態、つまりその価値を生み出している状態まで考えたうえでのKPIである、というのが素晴らしいですね。従業員エンゲージメントについても同様で、従業員エンゲージメントが高い状態がどのように会社の戦略やパフォーマンスに結びつくのか、その点まで考えた上でのKPIであるべきだと思います。お話を聞いていて、この未財務KPIはまさに御社のビジョンを表す指標でもあるかなと感じました。その言葉の通り、しっかりとあるべき姿が見えているのが非常に興味深いですね。

川内:ちなみに、御社ではすでに事業をグローバルに展開されていますが、このビジョンをグローバルレベルで浸透されるのにはなかなか苦労されているのでは無いでしょうか。

大脇:まさにグローバルで事業を進めていることの難しい点の1つでもありますが、Nittoではカスケードダウンの方式をとって伝えるようにしています。つまり上司が部下に自分の言葉でそのビジョンや背景を伝えてもらうことを大事にしています。時間がかかるかもしれませんが、それぞれが認識していることをアウトプットし伝えることで、血の通った内容が浸透していくと思っています。こういう方式を取るようになったのも、これまでポートフォリオの変革によって対象市場をグローバルに広げてきたからこそだと思います。

守島:先程の話とも呼応しますが、先に経営戦略(ポートフォリオ戦略)があり、そこに向かうための手段としてESGを重視されているのはユニークですね。お話を聞いていて、経営戦略から人財戦略や組織戦略にクリアに繋がっているのが手に取るように感じられました。

川内:ここまでNitto流ESGの考え方についてお伺いしてきました。確かに目標を掲げられる企業様は多いですが、それが達成された時の状況まで意識されているのは御社らしさの1つだと思います。

大脇:ありがとうございます。昔から「事業あっての財務、財務あっての未財務」という考え方を大事にしてきましたから。