大型放射光施設SPring-8(下記写真)(※注)の高度光源性能を活用して新素材開発を行う専用ビームラインを建設するため、Nittoを含めた19企業グループと学術研究者で構成される産学連合体「フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体(FSBL)」が2008年2月15日に結成されました。
SPring-8で初の、この産学連合専用ビームラインが、2010月2日4日、当施設のBL03XUで竣工しました。「官」が提供する大型放射光の高度な光源性能を駆使して、学術研究者の「知」と企業の研究者の「技」による高分子科学のさらなる発展と高分子新素材の開発を目指した活動が本格的にスタートできるようになりました。
高分子材料の応用技術開発ツールとしての放射光の利用に革新をもたらし、まったく新しいコンセプトの材料が創成されることと、各方面より期待されています。
大型放射光施設(SPring-8)の全景(写真提供:SPring-8)
(※注)SPring-8とは、独立行政法人理化学研究所(理研)が兵庫県の播磨科学公園都市につくった、世界最高性能の放射光を生み出すことができる大型放射光施設です。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことです。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(80億電子ボルト)に由来しています。国内外の産学官の研究者等に開かれた共同利用施設であり、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーなど幅広い研究が行われています。
産学連合体が建設したビームラインでは、高分子材料のナノ-サブミクロンスケールの階層構造を一度に高速評価することが可能なX線回折・散乱測定ができます。光源の輝度を高める特殊な装置を用いることにより、高分解能の実現とマイクロビームの形成を可能にします。専用ビームラインは上図のように、第一ハッチ(薄膜構造物性)と第二ハッチ(動的ナノ・メソ広域構造物性)から構成されています。
フロンティアソフトマター開発専用ビームラインの概略図
第一実験ハッチは有機・高分子薄膜および表面・界面の動的構造物性の解明を目指すものです。さまざまな外部環境下における結晶性高分子薄膜や表面領域の結晶化度・結晶の乱れ・長周期構造、ブロック共重合体薄膜のミクロ相分離構造、さらには超分子組織体の薄膜状態における分子凝集構造などを解明することを目的としています。薄膜状態や表面・界面領域の高分子材料の構造制御に有用な知見を与えるこのシステムは、有機EL、有機FET、有機メモリー材料などの電子デバイス分野、接着・塗装分野、印刷分野、生体材料分野など幅広いソフトマターの高性能化において、多大な貢献が期待されます。
第二実験ハッチは、新規材料開発のための高分子材料動的構造と物性との相関性を解明することを目的としています。延伸・紡糸等の応力、加熱・冷却、圧力、溶媒蒸発などの外部環境変化により誘起される高分子材料の形成・崩壊機構を解明するための計測が可能となります。その他、高分子材料の微小領域における構造物性や高分子結晶の電子密度分布の解明、高分子成型品の変形機構解明、成型加工過程における高分子材料の構造物性の解明なども可能となります。さらに、第二ハッチには、製造ラインなどの企業グループ独自の大型装置を持ち込めるように、キネマティックマウントを標準化した広いスペースを確保し、産学連合体専用ビームラインの特色を活かせるように設計されています。
この専用ビームラインの活用により、他の方法では評価できない材料の表面や内部構造の新しい分析・評価技術の開発、活用を目指しています。
次世代の先端材料において、産学連合体が高分子材料をベースとした革新的な新しい枠組みを生み出し、わが国の経済成長に大きく寄与することが期待されています。
Nittoグループでは、国の将来の戦略にそった領域で、当社技術を生かして、国の研究開発プロジェクトに参画しています。以下、2つのプロジェクトについて紹介します。
〔本研究は、新日鉄エンジニアリング株式会社が経済産業省の補助事業として実施しているものです〕
このプロジェクトでは、発電所等から排出される炭酸ガスを膜モジュールで濃縮する技術を開発しています。RITE(地球環境産業技術機構)および民間企業4社が参加して進めています。2009年度は、新方式の発電プラントから発生するガスを用い、当社試作の膜モジュールで試験運転を行いました。膜モジュールは、省エネルギー性の高い技術と期待されており、今後も取り組みを強化していきます。
試験運転設備(ECOPRO:経済産業省補助によるJCOAL事業)
〔NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)〕
バイオエタノールは、自動車の燃料添加用として脚光をあびています。最近は、食料と競合しない木や稲わらなどのセルロース材料を用いてエタノールを作る研究開発が活発に行われています。Nittoでは、NEDOのプロジェクトに参画、セルロースから製造された3~5%の濃度のエタノールを、当社開発の膜モジュールを用いて、99.5%以上の濃度まで濃縮する技術開発を行っています。
日東電工アジアテクニカルセンター(以下NAT)は、2008年11月にシンガポールに開設された研究所で、①Nitto独自の部材を使った環境産業や医療産業向けの新製品を開発すること、②シンガポールの研究開発機関と長期的なパートナーシップを築くこと、をミッションにしています。
オフィスはシンガポールの最新テクノパークであるフュージョノポリスにあり、研究員も現在18名になりました。アジア7か国から集まった多様な文化を持つ優秀な科学者・技術者たちの集団で、研究員の半数近くが博士号を保有しています。設立から15か月で、20件の特許を申請しました。
Nittoオリジナルのユニークな高分子技術とシンガポールの優秀なR&Dインフラストラクチャーを組み合わせることで、NATが進めている光センサーをバイオメディカル分野に応用する技術が、この1年あまりの間に大きく進展しました。
センサーデバイスイメージ この携帯サイズのデバイスに検体を入れるだけで、瞬時に数値化された生体情報を取得できます。
この光センサーを使用することで、数値化された生体情報を瞬時に取得することができ、疾病の早期発見や予防に役立てることができます。また、ネットワーク(あるいはインターネット)を活用することで効率的な疾病管理も可能となり、高齢化社会が進む中で大きな経済効果が期待できます。
NATが保有する光センサー技術を具体的な製品として実現させるためには、高精度、高感度が要求されるセンサーデバイスを、いかに低コストで大量生産できるかが重要な課題となります。Nittoの高分子技術が、集積化有機光デバイス設計の自由度を大幅に向上させ、ひいては低コストで効率的な有機光導波路の生産を可能にします。
2010年度はこれらを実現すべく、さらに努力を重ね、新たな用途開拓にも力を入れる予定です。
光導波路イメージ 画面の左側から入射した光は中央の壁の下に設けられた導波路(高分子を精密加工することによって形成された光の通路)を通って右側に到達し、光の文字を浮かび上がらせています。
国際色豊かなNATメンバー
「Nittoグループレポート」冊子をご要望の方は、こちらからお願いします。
(「Nittoグループレポート」冊子希望とご記入ください)