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トップメッセージ

「ニッチトップ戦略」×「Nitto流ESG戦略」の実践は、次のステップへ

Nittoグループは、2030年ありたい姿として「ニッチトップクリエーターとして驚きと感動を与え続ける『なくてはならないESGトップ企業』」を掲げています。社会課題の解決と経済価値の創造を両立させ、世の中に「なくてはならない」存在であり続けるために、持続可能な地球環境、豊かな人類社会の実現に貢献することを目指しています。

その実現に向けて、2023年度にスタートした中期経営計画「Nitto forEveryone 2025」では、「ニッチトップ戦略」と「Nitto流ESG戦略」を掛け合わせて実践することを柱としています。

「ニッチトップ戦略」は、成長するマーケットを見極め、その中のニッチな領域で、Nittoグループ固有の技術・知見の融合とステークホルダーとの共創を通じて、「なくてはならない」製品・機能・ビジネスモデルを継続的に生み出すことにより、各製品分野でシェアNo.1を目指すNitto独自の差別化戦略です。ニッチトップ戦略を追求することで、外部環境の影響を受けにくい、高い成長性・収益性を実現します。

これと掛け合わせる「Nitto流ESG戦略」では、ESGを経営の中心に置き、持続的な成長をさらに加速させるために、このたびサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)を見直しました。E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)領域に対して新たに定めた10のマテリアリティを、従業員一人ひとりが意識して実践していくことが社会課題の解決と経済価値の創造の両立につながります。

地球環境や人類・社会の課題解決を念頭に置いた事業活動を具現化するために「PlanetFlags™/HumanFlags™(環境・人類貢献製品)」の創出に力を入れています。R&Dにおける新規の取組みは、このテーマに関するものだけとする方針を打ち出しており、既存製品についても、お客様や外部パートナー様とともに材料や製造工程の見直しを進めています。このような変革を推進するためには、初期段階に多くのコストがかかりますが、将来への投資と捉え、製品の付加価値に変えて回収していく考えです。

現場の従業員としては、「既存製品で注文があるのだから、今までどおりで良いのではないか」という思いもあったかもしれません。R&D部門においても、新たな方針に対し、多くの従業員が悩み、マインドセットが難しかったと思います。しかし、今切り替えなければ、数年後、「あの時にやっておけばよかった」と悔やむことになると伝え続けてきたことにより、この1年で全社に方針は浸透し、従業員のマインドと実際の取組みの両方が揃ってきました。飛行機で例えると、これから滑走路で加速し、2030年ありたい姿の「なくてはならないESGトップ企業」に向けてテイクオフしていくというところまできたと手応えを感じています。

このような状況の中、2023年度の業績は外部環境が大きく変化したことに伴い計画に遅延が生じたものの、成長市場への積極的な経営資源の配分や構造改革によるコスト削減を進め、2022年度と同等の収益水準となりました。2024年度はスピード感をもって完成度を上げていく年として、中期経営計画「Nitto for Everyone 2025」の財務目標・未財務目標両方の達成に向けて、全社一丸となって取り組みます。

社会の動向の先を読み、イノベーションを推進

「ニッチトップ戦略 × Nitto流ESG戦略」の実践に向けて、グループ全体で取り組んでいるのが「Nitto流イノベーションモデル」です。PlanetFlags™/HumanFlags™の考え方のもと、重点分野の「パワー&モビリティ」「デジタルインターフェース」「ヒューマンライフ」とそれらが交わる領域でNittoの技術の強みやコンバージェンスを活かした製品・サービスのアイデアを創出し、テーマ化をスタートします。その上でニッチトップ戦略と三新活動で製品化を推進し、最終的に「なくてはならないニッチトップソリューション」を生み出しています。

PlanetFlags™/HumanFlags™は、CTOを議長とする審議会のもと、毎年審議を行い、経営幹部が集まる経営戦略会議で認定しています。2023年度におけるPlanetFlags™/HumanFlags™カテゴリ売上収益比率※1は36%で、2030年に50%以上とすることを目指します。また、ニッチトップ製品についても毎年審議を行っており、新たに認定されるもの、除外されるものがあります。2023年度におけるニッチトップ売上収益比率※2は44%で、2030年に50%以上とすることを目指します。PlanetFlags™/HumanFlags™の認定を受けたものが、ニッチトップ製品にも認定されることが理想であり、そうなることで「ニッチトップ戦略×Nitto流ESG戦略」が実体として見えるようになります。これがまさにESGを経営の中心に置くNittoの「未財務から財務への転換」です。

  • 売上収益に占めるPlanetFlags™/HumanFlags™カテゴリ製品の割合
  • 売上収益に占めるGlobal Niche Top™およびArea Niche Top™製品の割合

「Nitto流イノベーションモデル」のわかりやすい事例の1つに、PlanetFlags™にも認定されている、スマートフォンやタブレット端末に使われるOCA一体偏光板があります。これは、透明粘着シートと偏光板を当社で一体化し、品質を保証して提供するようにしたものです。この製品を使用することにより、お客様は加工・品質検査の工程を減らすことができ、また、剥離ライナーの廃棄枚数が減るため、お客様の環境価値(産廃削減)と経済価値(生産効率化・工程削減)向上に貢献しています。

私たちは以前から、この製品がお客様の財務面、環境面の両方で大きなメリットがあると言い続けてきましたが、近年のESGの潮流を受け、サプライヤーから個別に部材を調達していたお客様の価値観や判断基準に変化が現われ、採用が増加しています。トップシェアの当社が取り組むことによって、業界全体においてもOCA一体偏光板の認知度は高まっており、今後、さらに広く普及していくと考えています。この事例は、個別に販売していた製品を一体化するという新しい発想でお客様に貢献したイノベーションといえます。

一方、技術によるイノベーションの事例としては、多様な「剥離技術」を活用した粘着シートがあります。この製品は、通常の粘着シートと同様にしっかり貼り付きますが、熱やUV、水、電気、アルコールなどの剥離するきっかけにより、きれいに剥がすことができるというものです。この剥離技術は、廃棄物を減らせるという点で従来からお客様の製造工程の材料として高いニーズがありました。

昨今、欧州では循環型社会への移行に向けて、消費者の「Right toRepair(修理する権利)」の動きが広がっており、今後、この剥離技術へのニーズがさらに広がると考えています。例えば、モバイル端末を修理・回収する際、現在は部材を無理に剥がさなければいけないため、消費者は自分で修理ができず、また回収時には廃棄物が増えます。しかし、剥離技術を使うことで、貼り合わせてあるものをきれいに剥がせるようになれば、部材はダメージを受けず、消費者は自分で修理することができるようになりままた、回収後には多くの部材を再利用できるようになり、廃棄物を減らとができます。

このような動きは、今後モバイル端末のほかにも、自動車や家電など、あらゆる製品へ広がっていくと考えています。循環型社会へ移行していく中で、当社の技術によって「リワーク(再加工・手直し)」「リペア(修理)」「リサイクル・リユース」のニーズに対応して、さまざまな需要を創出していきます。

ESG重視の今、ニッチトップ戦略には、最終消費者への貢献も考えて社会の動向の先を読み、業界の中で先陣を切っていくことが重要と考えています。

なくてはならないESGトップ企業に向けて「Nitto forEveryone 2025」
重点4項目の取組みを着実に推進

中期経営計画「Nitto for Everyone 2025」では、4つの重点項目を掲げ、2023年度からさまざまな取組みを推進しています。

まず1つ目の「環境・人類に貢献する事業ポートフォリオ変革」については、経済価値と社会価値の両立を目指す「伸ばすもの」へ重点的にリソースを配分し、メリハリのある成長投資と構造改革を実行してきました。例えば、ヒューマンライフ分野では、希少疾患からより多くの患者を対象とした治療薬まで、商用化が進むと見込まれる核酸医薬市場において受託製造事業の需要増が予想されます。そこで、米国と日本国内で総額300億円超の設備投資を実施し、商用化対応の製造能力をもつ新工場を稼働させました。商用化に備えて、原材料供給から受託製造体制までバリューチェーン全体の増強を図っています。

また、パワー&モビリティ分野では、バッテリー用製品の開発に注力しています。自動車に使われるバッテリーにはリチウム電池や燃料電池などがあり、いずれもコンパクトであること、長い距離を走れること、安全であること、充電時間が短いことが求められます。当社は「熱」をキーワードとして、「耐熱」「放熱」「断熱」の熱マネジメントにフォーカスして製品の開発を進めています。

新たな領域の開拓にも乗り出しました。脱炭素に貢献する「ネガティブエミッションファクトリー構想」を2023年7月に発表し、環境ビジネスにチャレンジしています。製造工程ではたくさんのCO2が排出されます。これを回収・吸収し、貯留・固定することにより、大気中のCO2を除去するというものです。その具体的な取組みとして、ボイラーの排気ガスを直接回収する実証機を滋賀事業所に導入し、試運転を開始しました。技術開発を進め、CO2削減のためのトータルソリューションを提案していきます。

次に、「ニッチトップを生み出すイノベーションモデルの進化」について、具体例も挙げながら説明します。

Nittoグループは社会課題へのフォーカス、事業開発力の強化、ステークホルダーの皆様との共創活動を通じて、「なくてはならない」ニッチトップソリューションの創出を目指しています。ニッチトップ戦略はこれまで自前主義で進め、成功してきましたが、今後は外部の力をこれまで以上に活用することが必要になると考えています。その実例の1つがフレキシブルセンサーです。2022年に米国Bend Labs社を買収し、また、各研究機関とも共同研究などを進めています。ライフサイエンス分野で展開しようとしている心疾患(不整脈)検知デバイス&サービスは、人間の体のさまざまな動きをセンサーで感知し、疾患の早期発見から適切な治療へつなげることを目的としています。センサーから届く情報に価値を見いだし、マネタイズするような新しいビジネスモデルの構築を図っていきます。

デジタルインターフェース分野においては、期待が高まる仮想空間「メタバース」市場向けに、「没入感」を高める高精度でクリーンな光学フィルムを上市しています。中長期的な需要拡大を見据え、引き続き、機能の高度化、薄型・軽量化に取り組んでいきます。2024年4月には、英国のTruLife Optics社の株式の一部取得を決定しました。ARグラスの普及を目指して共同でホログラフィックオプティクスの新たな材料や量産性の検証を進めています。これまで培ってきた基幹技術に外部技術を組み合わせて、ARをはじめとする新たな市場での新製品創出に挑戦していきます。

さらに、CO2を回収する技術開発にも力を入れています。2023年12月にNittoが有する化学変換技術を活用し、エア・ウォーター株式会社と協業で、家畜ふん尿バイオマス由来のCO2から牧草の保存に使用されるギ酸を製造する取組みを開始しました。ギ酸は畜産業界で添加剤として利用されるので、この取組みは回収したCO2を有効利用する資源リサイクルということになります。

このように、社外パートナーの皆様と共創することでイノベーションを一層加速させたいと考えています。

3つ目に掲げる「人財・チームの挑戦を加速する組織文化の改革」においては、「チャレンジを楽しむ人財&チーム」を人的資本経営における2030年ありたい姿として、さまざまな施策を展開しています。

Nittoグループではこれまでチャレンジを「応援」してきましたが、今後は従業員一人ひとりが、失敗を恐れずにチャレンジを「楽しむ」組織風土をつくっていきます。最も重要なことは従業員一人ひとりの新たな価値創造に対する意欲であり、それを数値化する指標として「チャレンジ比率」を掲げ、2030年に85%とすることを目指しています。チャレンジ比率は、自分起点や会社起点のチャレンジ、エリア独自のチャレンジなど、価値創造に向けてチャレンジする人財の比率であり、2023年度は37%でした。社外の方からは「どのような活動を『チャレンジ』とみなすのか」と尋ねられることがあります。チャレンジする活動はたくさんあります。例えば、新規事業創出大会「Nitto Innovation Challenge(NIC)」が該当します。毎年、1,000件に上る新規事業や新製品に関するアイデアが、世界中から集まり、最終選考まで残ったアイデアは、事業部や研究開発部門が手を挙げて事業化にチャレンジします。職場の活性化と品質の向上を目指した小集団活動「Group Activity Toward Excellence (GATE)」もその1つで、すべての従業員が参加できる活動です。ほかにも海外トレーニー、ジョブポスティングなどのさまざまな仕掛けがあり、これらに参加して、従業員がどれだけ成長したか、活躍しているかを注視していきたいと考えています。

また、従業員の働きがいを評価する指標として、「エンゲージメントスコア」を設定しており、2030年に85とすることを目指しています。2023年度のスコアは前回から7ポイントアップし81となり、ポジティブな結果となりました。各社・各拠点の活動の成果が表れたと捉えています。

こうしたNittoらしい取組みを推進することに加えて、積極的な情報発信も行った結果、「人的資本調査2023」における「人的資本リーダーズ2023」および「人的資本経営品質(ゴールド)」を受賞し、「D&I AWARD2023」において、最高評価の「BEST WORKPLACE」に認定されました。人財は最も重要な財産です。お客様に貢献するイノベーションを創出するために、Nittoらしい人的資本経営を引き続き推進していきます。

最後に「変化を先取る経営インフラへの変革」に対する取組みを紹介します。

Nittoグループがさらなる成長を遂げるには経営インフラの強化が重要と考えています。今後も継続してお客様から信頼と期待を頂ける経営を目指して、変化を先取りした、外部環境の影響を受けにくい強靭な経営基盤への変革を進めています。例えば、ニッチトップ製品は高いシェアを獲得していますが、お客様への供給責任を果たすためには、サプライチェーン強化が欠かせません。そのため、全社横断の組織としてサプライチェーンコミッティを設置し、地政学リスクや化学物質規制リスク、気候変動問題などの潜在リスクに対して先回りして対策しています。

また、データやデジタル技術の活用も経営基盤の強化において重要なテーマだと考えます。基幹システムの刷新やサイバーセキュリティの強化などいくつか取組みを実施してきていますが、AIをはじめとしたデジタル技術の進化は速く、Nittoの取組みはまだ十分ではありません。データをもとにした意思決定を行うことでスピードと質を上げるとともに、デジタル技術を活用した業務改革やビジネスモデル変革を進めます。併せて、それらのテーマを推進するための人財の確保・育成や外部パートナー様との連携を進めていきます。

そして、Nittoグループが最優先事項の1つとしている安全については、「安全をすべてに優先する」方針のもと、あらゆる事故や災害をゼロにすることを目指し、拠点ごとにリスクを抽出し、危険度合いに応じた対策を講じています。2022年度にグループ会社で発生した火災事故を契機に、2023年度から10月4日を「Nittoグループ防火の日」と定めました。過去の教訓を活かして対策の強化を図るとともに、事故・災害ゼロの実現に向けて、従業員一人ひとりが心と体の健康を維持し、自らの判断と責任で安全な行動をとる「自律型安全文化」の醸成に取り組んでいきます。

水道用膜モジュールの認定制度に関する不適切行為について

このたび、「当社製水道用膜モジュールの認定制度に関する不適切行為」(2024年1月公表)について、お取引先様、水道事業者様および水道利用者様ならびに膜協会をはじめとする関係者の皆様に、多大なるご心配とご迷惑をおかけしましたこと、あらためて深くお詫び申し上げます。その後、3月に外部専門家で構成される調査委員会を設置し、6月に調査報告書を受領しています。

私は、常日頃から、「経営の安全」がどれだけ重要であるか繰り返し言い続けてきました。今回の事案を厳粛かつ真摯に受け止め、ガバナンスをより一層強化しなければならないと痛感しています。ガバナンスは事業を支える基盤と認識していますので、それを文化として醸成し、「経営の安全」を確立させることに尽力します。二度とこのようなことが起こらないよう、また、皆様からの信頼を一日でも早く取り戻せるよう、委員会の調査報告書を踏まえ、さらなる見直し策や新たな防止策を整備し、順次、実施していきます。

世界で「なくてはならない」価値を追求

新しい取組みを始めるときは多くのエネルギーを必要としますが、動き出すとスピードは加速していきます。Nittoグループにとって2024年度はスピード感をもって完成度を上げていく年となります。Nittoでは未だ財務にならずとも、活動を推進することで将来財務となって利益を生んでいくという意味を込めて「未財務」という考え方をしています。製品系・環境系・人財系からなる「未財務」は、それぞれを向上させ、どれも欠けることなく相互に連携することで、「財務」に転換され企業価値向上につながると考えています。そして、2030年に「なくてはならないESGトップ企業」となるために、世界中で「なくてはならない」を追求し、存在価値を高めていきます。

世の中で「なくてはならない」を見つけることは難しく、簡単に到達できるものではありません。私は従業員に、行き詰まったら一歩下がって、「なぜNittoでなければならないのか」という視点に立ち戻るように伝えています。それを突き詰めることで、Nittoが世の中にとって、「なくてはならない」存在になっていくといえるからです。今後は、製品の機能面に加えて、環境面においても価値を創出していくことが重要です。すべての製品がPlanetFlags™/HumanFlags™としてあらゆる分野ではためき、そしてGlobal Niche Top™やArea Niche Top™となることが、私の夢です。

引き続き、ステークホルダーの皆様のご理解、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。

代表取締役 取締役社長
CEO COO

髙﨑 秀雄