海洋センサーは海洋観測で広く使用されており、超音波ドップラー式流向流速計(ADCP)などが一般的です。このようなセンサーで得られるデータは、海底地形の測量、河川流量の測定、波や乱流の測定、気象予測に役立ちます。ADCPは海の状態の把握や今後の予測をする上で重要な役割を果たしてきましたが、バイオファウリング(付着生物による汚損)が発生すると十分に性能を発揮できませんでした。
バイオファウリングは藻類、フジツボ、軟体動物などの水中生物が機器の表面に付着する現象です。こうした微小生物の蓄積は、機器を損傷し、計測誤差や動作不良を引き起こします。
バイオファウリングはセンサーを使用する使用者と得られるデータを利用する者にとって重大な問題であり、バイオファウリングを減らし、それが引き起こす潜在的な損害を最小限に抑えるためにMARINGLIDE™が開発されました。
MARINGLIDE™の開発段階で目標としていたのは、生物にとって悪影響のある成分(錫や銅、薬剤)を主成分とするファウリングを防止する従来塗料の代替品を開発することでした。有機スズ化合物を主成分とする塗料は、2010年代初頭に国際海事機関(IMO)によって禁止が決定され、2010年代後半までに国際的に完全に禁止されることになりました。有機スズ化合物を主成分とする塗料は海洋生物にとって有毒なため、水質保護の目的で禁止されたのです。
MARINGLIDE™は塗料のような道具や乾燥時間が要らない、誰でも容易に使用できる粘着フィルムとして開発されました。開発当初は船底向けに開発していましたが、貼る難しさや貼り替えの問題があり一時は研究活動を停止させましたが、研究開発チームは諦めることなく、今回の用途を開拓し、海洋学研究者と協力して製品化に取り組みました。
MARINGLIDE™のバイオファウリング防止粘着フィルムの完成には、用途の変更や自然相手の数年に及ぶ検証実験などもあり、約10年を要しました。最終フィールドテストは三河湾など各地で実施され、MARINGLIDE™を貼り付けたPVCパネルを海中に6ヶ月間沈めました。6ヶ月後、チームはPVCパネルを回収し、いかなるバイオファウリングも無いことが確認され、MARINGLIDE™は遂に完成したのです。
MARINGLIDE™は、バイオファウリングを防ぐ特殊な表面をもつ粘着フィルムです。
フィルム表面にある防汚層は、生物が表面に付着するために使用するタンパク質の付着を抑制することにより、生物がフィルム表面に付着するのを防ぐ機能をもっています。殺生・忌避させる成分を含まないため、環境に負荷をかけずにバイオファウリングを防止できます。 また、粘着剤で貼り付けるだけなので、表面への貼り付けも容易です。
MARINGLIDE™の用途の1つは、水中に設置された超音波ドップラー式流向流速計(ADCP)の保護です。これらの高性能センサーはファウリング防止塗料で塗装することができず、バイオファウリングから守るために高額なメンテナンスを定期的に行う必要がありました。バイオファウリングは正確なデータ測定に対する脅威であり、ADCPを使用する研究者の調査結果に悪影響を与えています。Nittoは、ADCPの革新的な開発会社で世界トップ企業の1つであるNortekと協力して、ADCP測定機器に対するMARINGLIDE™の有効性をテストしました。テストでは、MARINGLIDE™を貼り付けたNortekの測定機器を海中に4ヶ月間沈めデータを収集しました。その後回収されたADCPはMARINGLIDE™によって保護されており、フィルム表面にはバイオファウリングがないことを確認できました。センサーは、付着生物に邪魔されることなく、正常に測定を続けることが確認できたのです。
Nortekはこの結果に大変満足し、「MARINGLIDE™こそNortekが探し求めていた解決策であり、海洋研究に大いに役立つだろう」と述べました。
多くの情報が得られるデジタルカメラは街中だけでなく水中でも多く利用されるようになってきました。海上養殖ではビデオカメラで育てている魚や養殖網の状態を把握することで、餌やりやメンテナンスの効率的な運用が可能になり、研究分野では環境影響評価にも近年、使用され始めています。
しかし、多くの利用者にとっての共通した課題は、カメラレンズが付着生物によって汚れ、画像データが得られなくなることです。そのため利用者は使用するカメラ全てにおいて、1~2週間毎にカメラレンズを清掃する必要がありました。なぜなら、従来の防汚塗料では画像の解像度に悪影響を与えるため、水中カメラレンズには使用できなかったからです。
Nittoは世界的な海洋研究機関であるオランダ王立海洋研究所(NIOZ)と協力して水中カメラに対するMARINGLIDE™の有効性をテストしました。以下の写真に表示されているようにテストはカメラレンズの右半分にMARINGLIDE™を貼り、水深が浅いオランダの北海水中で3ヶ月間行われ、海水の移動や海洋生物を水中カメラによって観察しました。収録されたビデオには、MARINGLIDE™が貼っていない左部分では1ヶ月程度でほぼ海中画像が見えなくなったのに対して、MARINGLIDE™が貼ってある部分では、MARINGLIDE™の高い防汚性能と高い透明性で、期待する画像データを得ることができました。NIOZはこの結果に大変満足し、我々の努力が実った瞬間でした。
今後は食糧問題や環境問題において、海洋利用が世界的に加速すると期待されており、水中カメラの需要が今後ますます伸びていくと期待しています。
海洋は地球上で最も謎に包まれた場所の一つです。海洋の利用は、洋上風力発電や養殖、資源開発などこれからますます広がっていくと予想されています。こうした状況において、Nittoはお客様と環境の両方にとって革新的なソリューションを開発するお手伝いをいたします。
Nittoの持続可能性への取り組みの詳細は、以下をご覧ください:https://www.nitto.com/jp/ja/sustainability/
参考リンク(英語ページ):
Anti-biofouling Protection Film: MARINGLIDE - Hydro-international (2020)
MARINGLIDE: Anti-biofouling Protection Film - Ocean New & Technology (2021)