第1章 接着剤の始まり 漆
漆木の文化を支えた接着剤
日本の特産品として有名な漆も、接着剤
古くから用いられていた接着剤として、漆もあげられます。
漆といえば輪島塗に代表されるように、現在は塗料としての用途が一般的です。また英語で漆器のことを「japan」と言うように、国際的にも日本の漆は有名ですが、古くは主に接着剤として使われていました。
漆の原料はウルシの木からとれる樹液です。これを、中国では紀元前2000年頃から顔料の結合剤として使用していました。日本でも、縄文時代の遺跡から出土した土器の中に漆で彩色したものが多く見られます。また、漆を顔料の結合剤として用いる技術も、紀元前300年頃に朝鮮から日本へと伝わってきました。
6世紀から7世紀にかけてつくられた法隆寺の玉虫厨子にも、顔料を固定させるための結合剤として漆が使われています。
木の文化に密着した、漆
漆は、金箔を貼るのにも欠かせませんでした。京都にある金閣寺には金箔がふんだんに貼られていますが、これも漆が接着剤の役割を果たしています。
仏像のつくり方に「乾漆(かんしつ)」という技法があります。これは、麻布に漆を塗って貼り重ねてから型を抜くもので、天平時代に多く行われました。有名な興福寺の阿修羅像などがそうです。その後「寄せ木つくり」という方法が生まれました。仏像の手・足など、部分部分を別々につくって貼り合わせて完成させる方法で、ここでも漆が接着剤として役立ちました。木の文化に「漆」は欠かせない接着剤でした。
文化によって異なる接着剤
もちろん、日本や中国でも、接着剤のはじまりは天然アスファルトです。しかし、その後は漆の方が主流になります。植物の樹液からつくられる接着剤だけに、木材との相性が良く、日本や中国といった「木の文化」を中心とする国では、好んで使われたのでしょう。それに対し、「石の文化」であるヨーロッパでは天然アスファルトが接着剤の主流でした。私たちの先人は、何を接着するかによって接着剤の種類も決めていったのです。
なお、木工用接着には、漆とニカワ(膠)を混ぜて使うこともありました。どちらも接着力が強いことから、仲の良いことを「膠漆(こうしつ)の交わり」と言います。さらに閨房(けいぼう。寝室の意味)の有様をあらわすこともありますが・・・・・・詳細は割愛いたしましょう。