Nitto

ESG経営での
「グローバルニッチトップ™」戦略

ESG経営での「グローバルニッチトップ™」戦略

#2 髙﨑秀雄社長インタビュー

環境と人類への貢献に全力で取り組み
“なくてはならない”存在に

環境と人類への貢献に全力で取り組み “なくてはならない”存在に

日東電工(Nitto)の「グローバルニッチトップ™」戦略が、ESG(環境・社会・企業統治)経営の下で一段と加速している。#2は、同社の髙﨑秀雄社長にインタビュー。ESGを経営の柱に据えた背景、新たな「グローバルニッチトップ™」製品の可能性、目指す企業像などを聞いた。

売り上げ・利益に大きく貢献
「グローバルニッチトップ™」製品

――現在、「グローバルニッチトップ™」戦略はどのような状況にありますか。

髙﨑 これまで通り、将来大きな成長が期待できそうな分野を見つけ、Nitto固有の技術や特許、ノウハウなどを融合し、他社と差別化する戦略に変わりはありません。ただし、将来のことは誰にも分かりませんし、いきなり大きなマーケットになることはない。粘り強さと目利きが必要です。四半世紀前に始めたマーケティング戦略ですが、今も売り上げ・利益に対し「グローバルニッチトップ™」製品が大きく貢献しています。Nittoの戦い方の根幹です。

 昨年からは、定義を新たにした重点3分野で「グローバルニッチトップ™」戦略を推し進めています。その一つ「次世代モビリティ」の中心テーマは、何と言ってもEV(電気自動車)。Nittoのルーツである絶縁材料を復活させ、「熱」をキーワードにモーターなどの製品展開を進めているところです。「情報インターフェース」では、仮想空間「メタバース」市場に向け、没入感を高める超クリーン光学フィルムや、プラスチック光ケーブルなどに注力しています。まずは、VR(仮想現実)ゴーグルをデビュー戦とし、実績を積んでいきたいですね。3つ目の「ヒューマンライフ」では核酸医薬、気体分離膜市場に参入。今後大きく伸びることが期待される特に楽しみな分野です。

ESGを経営の中心に
「環境貢献製品」「人類貢献製品」

――ESG経営を進める背景、ESGの視点を加えながら「グローバルニッチトップ™」戦略を推進するための具体策を教えてください。

髙﨑 数年前までESGの推進は、収益性とどうバランスをとっていくか、かなり悩みました。しかし、これからはESGを経営の中心に置かないと価値が得られない。「グローバルニッチトップ™」戦略も加速しません。そこで、ESGはコストではなく投資だと前向きに捉えることにしたのです。投資なら、ビジネスとしてきちんと回収することが求められる。では、どうするか――。まず「お客様」の概念を、直接の「顧客」だけでなく、その先にある「地球環境」や「人類・社会」にまで広げることにしました。

 その新たなスキームが「環境貢献製品(PlanetFlags™)」「人類貢献製品(HumanFlags™)」です。地球環境や人類に貢献するNittoの製品やサービスの価値を可視化して認定することで、サステナビリティーの重要課題である「イノベーションによる価値共創」を具現化していきます。事業を通じた社会課題の解決と経済価値の創造の両立を加速させる取り組みです。既に「環境貢献製品」では低VOC(揮発性有機化合物)両面テープ、ZLD(排水ゼロ化)用途RO膜(逆浸透膜)、「人類貢献製品」ではHDD(ハードディスクドライブ)用フレキシブル回路基板、核酸医薬品の原薬製造受託、医療用フィルムを認定しています。

PlantFlags 低VOC両面テープ ZLD(排水ゼロ化)用途RO膜 HumanFlags HDD用フレキシブル回路基盤 核酸医療品の原薬製造受託 医療用フィルム

PlantFlags 低VOC両面テープ ZLD(排水ゼロ化)用途RO膜 HumanFlags HDD用フレキシブル回路基盤 核酸医療品の原薬製造受託 医療用フィルム

ESG以外のテーマはやらない
「経営ファンド」活用も促す

――テーマを ESGに絞り、新製品比率35%ルールを維持していくのは厳しいのではないでしょうか。

髙﨑 厳しいと思われるかもしれませんが、それだけESGの視点が重要だということです。例えば、時間も資金も投入して開発した製品でも、厳しい環境規制が設けられた途端、市場投入できなくなる可能性もあります。それまでの投資がムダになってしまうのです。だから、たとえ売り上げや利益が見込めても、ESGをテーマにしたもの以外はやらない。

 うれしいことに、ESGを経営の中心に置くと宣言してから、従業員の発想の転換に手応えを感じています。例えば、新製品の一つ「糸状の粘着テープ」は、貼付・剥離の機能性が高いことはもちろん、廃棄部分が少なく地球環境にも優しい。こうした製品は、ESGの発想がなければ生まれなかったでしょう。従業員皆の発想が変わり、どんどんESG視点のテーマが出てくれば、新製品比率35%の中の大部分を2つの貢献製品が占めるようになっていくと期待しています。社長の私と、CTO(最高技術責任者)、CFO(最高財務責任者)の3人で判断し、新規案件に資金面などで援助する「経営ファンド」をもっと活用してもらいたいですね。

自前主義にとらわれない
M&Aで完成度とスピード上げる

――ここ数年、M&A(合併・買収)も目立ちます。

髙﨑 これまでNittoは、半世紀前から続く「三新活動」を源泉に、「グローバルニッチトップ™」戦略の実行には自前の技術でないと対応できないと考えてきました。しかし創業100周年を機に次世代を見据えたとき、世の中の利便性への貢献だけでなく、地球環境や人類への貢献にも対応することが必要との考えに至りました。その実現に向け、完成度やスピードを上げるには、外部との連携も必要だと決断したのです。技術や特許、人材、ブランド、チャネルなどNittoに足りない要素をしっかりと見極めた上で、自前主義にとらわれず、アンテナを張って外部連携を進めていきます。

 最近の大型案件は、英製紙大手モンディ傘下にあったパーソナルケア事業の買収です。おむつや生理用品などに使われる伸縮材料のシェアが高く、Nittoの事業との親和性が高い。バリューチェーンも拡充し、「グローバルニッチトップ™」製品の創出も加速すると期待しています。主要拠点はドイツにあり、先端技術や環境対応への側面でも魅力を感じました。M&Aの際には、さまざまな検討事項がありますが、理屈だけではなくタイミングや相性も大事ですね。

自前主義にとらわれない M&Aで完成度とスピード上げる

自前主義にとらわれない M&Aで完成度とスピード上げる

経営サイドの本気度見せる
変化を楽しむ企業風土

――外部との連携を進める上で心がけていることは何でしょう。

髙﨑 一番気を配っているのは、相手企業への対応です。無理にNittoの経営理念などを押し付けることはしません。現地で事業を担うトップに、いい会社の一員になったと思ってもらい、その背中を従業員の皆さんが見ることで同じような思いを持ってもらえるといいですね。一方、Nittoの従業員はこれまで、他社の力を借りない自前主義に自負を持っていましたが、社長である私を含め経営サイドの本気度を見せることで納得してもらえると考えています。実際、今回のパーソナルケア事業のM&Aには、巨額の投資と人材配置などで本気度を示すとともに、ESGを経営の中心に置く方針に沿って、ヒューマンライフソリューション分野を拡大するための施策であることを理解してもらっています。

 もともとNittoの従業員は、変化が好きな人が多いんです。今が一番快適だから、このままでいいと考えるのではなく、変化がある方がチャンスがあると考え、変化を楽しむ企業風土がある。だからESGを経営の中心に置くという強いメッセージも変化と捉え、変化の波に乗り「グローバルニッチトップ™」戦略のスピードを上げていけると信じています。

外部環境の変化を言い訳にしない
強じんな企業体質つくる

髙﨑秀雄社長 髙﨑秀雄社長
たかさき・ひでお 1953年大阪府生まれ。78年明治大学商学部卒、日東電気工業(現日東電工)入社。電子材料、光学材料など同社の幅広い部門を歩む。2005年日東ヨーロッパ社長、08年取締役、14年4月から現職。

――外部環境も大きく変化しています。どのように捉えていますか。

髙﨑 誰も予想しなかった新型コロナウイルスに加え、ロシアのウクライナ侵攻、超円安などさまざまな問題がまとめて押し寄せています。こうした影響を全く受けずに済むことは難しい。でも、言い訳にはしたくない。外部環境がどう変化しても、Nittoは他社より影響を受けにくい場所で、売り上げも利益率もしっかりとキープし成長する。そういう姿を社内外に見せていきたいですね。

髙﨑秀雄社長 髙﨑秀雄社長
たかさき・ひでお 1953年大阪府生まれ。78年明治大学商学部卒、日東電気工業(現日東電工)入社。電子材料、光学材料など同社の幅広い部門を歩む。2005年日東ヨーロッパ社長、08年取締役、14年4月から現職。

 めざすのは、外部環境変化の影響を受けにくい強じんな企業体質。それを支えるのが、「グローバルニッチトップ™」戦略です。「環境貢献製品」と「人類貢献製品」が「グローバルニッチトップ™」製品に育つことが理想。そういう流れができればお客さまは必ず付いてきてくれるし、Nittoに声をかけてくれるでしょう。あったらいいなではなく「なくてはならない」が「グローバルニッチトップ™」戦略のあるべき姿だと考えています。これからもNittoを象徴するような「グローバルニッチトップ™」製品に期待してください。

※「Global Niche Top/グローバルニッチトップ」は、Nittoグループの登録商標です。

#1
進化する
日東電工