髙﨑秀雄

次の変革へポートフォリオを再編

「ニッチトップ戦略」はNittoのカルチャーに 
髙﨑社長が語る強さの理由

スマホ向けなどの光学材料や産業用テープ――。日東電工(Nitto)は高付加価値で競合の少ない「ニッチトップ」製品を生み出すことで事業を拡大してきた。Global Niche Top™(グローバルニッチトップ)戦略をけん引する髙﨑秀雄社長(2026年4月に代表権のある会長に就任)に高い収益を維持できる理由を聞いた。

圧倒的な技術力でお客様にソリューションを提供

―― 2025年11月に行われた日経フォーラム「世界経営者会議」(主催=日本経済新聞社など)で講演いただきました。改めて伝えたかったメッセージを教えてください。

私たちが掲げるGlobal Niche Top™戦略が単なる戦略を超え、会社の成長を支えるカルチャーにまで昇華しているという点です。ニッチトップ戦略とは平たく言えば「差別化戦略」。変化しながら成長する市場を選び、「High-end(ハイエンド)」のお客様からニーズをいただき、圧倒的な技術ソリューションを提供することを指します。

―― ニッチトップという言葉を使い出したのは1990年半ばと聞いています。

私の3代前の社長の山本英樹さんのころからです。当時は「発想はあったが行動になっていなかった」状態で、ニッチトップに相当する製品はほとんどありませんでした。実際に戦略に合致する事業や製品が立ち上がり、実態を伴ってきたのはここ14、15年です。

「High-end(ハイエンド)」のお客様に鍛えてもらっている

事業環境の変化に応じたビジネスモデル
髙﨑社長は「圧倒的な技術力で「High-end(ハイエンド)」の市場でポジションを取り、事業環境に合わせてビジネスモデルを変える」と主張する

―― 成長する市場を見極めて、新製品を作り出すことは簡単ではありません。

ニッチトップ戦略の要は業界をリードするお客様のニーズに徹底的に応えることで、当社が「なくてはならない」存在になることです。顧客ニーズを先回りする豊富なシーズ(技術の種)とスピード、そして完成度を伴った技術・提案力でこれを実現しています。

いくらシーズが多くても、提案と試作の速度と品質が伴わなければトップのお客様から相手にされません。「あったらいいな」ではなく「なくてはならない」存在にならないといけないのです。

新製品発売から3年ほど経過すると競合メーカーも出てくるようになり、市場環境はMiddle(ミドル)になる。こうなると、当社は、製品単品ではなくセットでソリューション提案をしたりする。さらに、市場環境がLow(ロー)になると、知的財産をオープンに転換し、他社と協業してロイヤルティー収入を得る事業に変える。

ESGは経営の中心。熱が弱まってもブレずに継続させる

―― ここ数年、ESG(環境・社会・企業統治)を経営の中心に置いてきました。

戦略の進化における転換点といえます。以前は利便性の追求が製品や事業評価の中心でした。しかし、4年前から「ESGを経営の中心に置く」と宣言し、社会課題の解決と経済価値の創造を両立させる方針をニッチトップ戦略に組み込みました。

ESG経営の中心的な活動が社内の「環境・人類貢献製品」の認定制度です。「PlanetFlags™」は地球環境への貢献、「HumanFlags™」は人類・社会への貢献を示します。ニッチトップとして経済価値を高めると同時に、Flagsと重なる「ダブル認定製品」を追求しています。

さらなる成長を実現するダブル認定
社内で共有される概念図の多くは髙﨑社長の強い思いを形にしたものだ

―― とはいえ、ESGの流れは以前と比べて世界的に勢いを欠いているように見えます。

昨今、ESGの熱は弱まっていると感じることもあります。ただ、ESGの流れは絶対に戻ってくると確信しています。

具体例の一つが、電子機器を修理する際などに部品の取り外しが簡単にできる電気剥離テープです。この要素技術は10年も前に完成していましたが、近年、欧州を中心に「修理する権利」を巡る動きが活発になっていることを背景に需要が増えています。こうした取組みは、循環型経済の推進に大きく貢献できると考えています。

社内新規事業創出大会は全世界で10人に1人が参加

―― Nitto流のイノベーションモデルはどういうものですか。

アイデアの創出、テーマ化、製品化の推進、それを事業化させる「0→1→10→100」の実践です。

「0→1」を支える代表的な仕組みが、全社的な新規事業創出大会「Nitto Innovation Challenge(NIC)」です。グローバルで約2万6000人いる社員が対象で「こんな製品・機能があるといい」というアイデアを募集しています。2025年度は2683件の応募があり、過去最多となりました。全社員の実に10人に1人が手を挙げている計算です。

Nitto Innovation Challenge(NIC)は成長の源泉
社内新規事業創出大会(NIC)は2020年度から始まった。2025年度は2,683件の応募があり、過去最多となった

―― 応募が増えている理由は何ですか。

システムも改善し続けていますが、もう一つは「丁寧なレスポンス」だと思います。応募してきた提案には全てコメントを戻しています。ボトムアップのチャレンジ精神を促しているといえます。

経営会議の座席はくじ引き 週報の徹底でフラットな組織づくり

―― イノベーションと実行力を支えるカルチャーはどうつくっているのですか。

フラットで風通しの良い組織を意識しています。当社では役職で呼ばず「さん付け」が根付いています。取締役会や経営会議の席もくじ引きで決めます。私が下座に座ることもあります。そうすることで雑談や予期せぬ交流が生まれます。

もうひとつはウイークリーリポート(週報)です。私も含めた社員が週報を提出する文化が半世紀近く続いています。1週間の活動を報告・共有することで周囲からアドバイスを得られます。

毎週「書く→読む→考える」のルーティンが厳しいお客様へのレスポンス能力にも結びついているとも感じています。経営の目線でいうと、異変の察知や課題の早期発見につながる可能性があります。近年はデジタルトランスフォーメーション(DX)化により、蓄積された週報データを新たな価値創出に活用する試みも始まっています。

バランスのよいポートフォリオづくりに手応え

―― 今後、事業ポートフォリオ変革をどう進めていきますか。

現在の営業利益はオプトロニクス関連事業が主導し、産業用テープが拡大しています。一方でヒューマンライフ事業は売上比率こそ1割強あるものの、現時点では利益に貢献していません。ただ、ヒューマンライフ事業はこれから大きな需要が見込めます。

これまでのニッチトップ戦略で創出されたキャッシュを次の変革に向けて投入していきます。今後のバランスのよいポートフォリオの実現に手応えを感じています。

髙﨑秀雄
髙﨑秀雄(たかさき・ひでお) 1978年明大卒、日東電気工業(現日東電工)に入社。電子材料、光学材料など同社の幅広い部門を歩む。2014年から現職。2026年4月から代表権のある会長に就任予定。大阪府出身。72歳

―― 改めてNittoの強みをどう考えますか。

やはりニッチトップ戦略ですね。今後、人や組織が変わってもこの戦略に変わりはありません。5月に新たな中期経営計画を発表するために準備を進めています。ちょうど飛行機が滑走路でスタンバイしている状態ですね。2026年はさらなる成長に向けたテイクオフの年になります。