ミラノの会場を訪れたデザイナーの一人が、スイスのラ・ヌーヴヴィルを拠点に活動するatelier oï (アトリエ・オイ) のパトリック・レイモン氏だ。アトリエ・オイはミラノ・サローネで話題を集める家具メーカーの数々をはじめ、メゾンブランドの「ルイ・ヴィトン」などからも家具を発表する建築デザイン事務所。パトリック氏は3名からなる設立者のひとりで、事務所の代表、そしてデザイナーである。日本でも多くのプロジェクトを行ってきたパトリック氏は、どのように『RAYCREA』を見たのだろう。
アトリエ・オイが設計したジュエリー工場。コンクリート製ファサードで、夜には宝石がきらめくイメージを表現している。また夏には太陽の光を弱め、冬にはそのエネルギーを活用することができる。RAYCREAを使って、建築に面白い表情を与えることができるだろうとパトリック氏は言う。
photo by Yves André
「まず会場では光の美しさを感じました。わたしたちはオラファー・エリアソンやジェームズ・タレルといった現代美術の作家が好きですが、彼らの作品を思い出しましたね。Nittoのことは以前から存じ上げていて、豊橋の工場にもお邪魔したことがあるんです」と話すパトリック氏は、会場で『RAYCREA』を見て、なにより「サスティナビリティの可能性に注目しました」という。
「いまはどのようなプロジェクトにおいても、サスティナビリティの実現は重要な視点です。『RAYCREA』を見て、点の光を面で表現することができるのであれば、光源のエネルギーを抑えることができると感じました。ほかにもいろいろな可能性に満ちています。窓に貼ると、昼は日光が差し込み、夜は発光体になる。それが建物のアクティビティと連動していくと面白いでしょう。プロダクトにも可能性がありますし、公園のような屋外やサイン計画、インスタレーションなど、いろいろなシーンでの活躍が想像できます」
アトリエ・オイが以前にミラノで発表した、大きなベルにインスパイアされたという直線的で彫刻的な照明。アルミニウム製のロッドが擦れ合ったり振動したりすることで、音を奏でる。影と光の戯れが生き生きとした雰囲気を空間に生み出す。
courtesy of atelier oï
パトリック氏は『RAYCREA』を見て、実現に至らなかった過去のプロジェクトを思い出したという。それは窓のない遮光された空間で自然光を再現するという実験で、実験そのものは成功したものの、実現するためのマテリアルが見つからなかった。ほかにも人の動きに合わせて階段の手摺り壁が光るというプロジェクトなど、いくつかの例を挙げる。どれも『RAYCREA』があれば、実現も夢ではないと続ける。
「アトリエ・オイの空間において光は重要なエレメントの一つです。それは生活に根ざすものと言っていいでしょう。私たちのデザインは、自然界の要素、そしてまた同時に日本の文化にも大きな影響を受けています。私たちは日本文化の最大の特徴を、絶えず変わっていくことにあると考えています。その哲学に自然の影響は欠かせません。たとえば光を巧みに用いれば、人が動くと影ができ、人の動きを視覚化することができます。そうした効果の実現にも『RAYCREA』の可能性を感じています。また窓のない空間に光の窓を作りだすようなことも可能でしょう」
すでに進行中のプロジェクトで『RAYCREA』を使うことはできるだろうかと、次々に可能性を考えるパトリック氏。現在、実用化に向けて最終調整が進む『RAYCREA』を彼らの建築で目にする日も遠くないかもしれない。