前回のインタビューでは建築照明デザイナーの面出薫氏に、自身が会場構成を手がけるミラノデザインウィークの展示「Search for Light」の考えに迫った。今回は面出氏が考える光の哲学に迫っていく。これまでさまざまな建築や都市空間、ランドスケープにおいて光をデザインしてきた面出氏にとって照明をデザインすることとは、時間をデザインすることだと言う。そして、多くの人が昼のことだけを考え、夜の魅力を見過ごしているのではないかとも疑問を投げかける。
大規模な修繕が行われた東京駅の照明計画を担当。建物の表情を引き出す明暗ある照明計画で歴史的建造物本来の魅力を人々に伝える。
2012年に開業したシンガポールの植物園「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」でも照明計画を担当。昼とはまた違う表情をもつ夜の園内の姿が多くの人々を魅了し、植物園の新たな可能性を提示した。
光の感性を取り戻そう
「現代を生きる私たちは、もっと夜のあり方にセンシティブであっていいでしょう」
そう切り出した面出氏は、太陽を真似た光で夜の建物をライトアップするよりも建物の内側にある光が外へこぼれだす風景のほうが自然だと続ける。太陽の光が届く時間と届かない時間は、同じ景色をまったく別の景色にする。そうした昼夜における反転した光の関係を「反転性:リバーシブルな関係」と、面出氏は表現する。
「多くの人々が夜に明るさを求めますが、闇がなければ美しい光は成立しません。日本人は人工照明の普及とともに、たっぷりの白く均一な光が復興や近代化の証であるとして憚りませんでした。もはや、たくさんのエネルギーを使って過剰に明るくする時代ではありません。これは我々の反省でもあるし、未来への提言でもあります。ですから『RAYCREA』には、『夜を温かい光で過ごすこと』『僅かな光を愛おしむこと』『眩しくなく柔らかい光に包まれること』『美しい闇や陰影を大切にすること』『美しいグラデーションを愛でること』など、本来の光の感性を取り戻すことに作用する可能性を秘めています」
明快なビジョンで未来を照らす
では『RAYCREA』には、これからの空間をどのように変えていく可能性を感じたのだろう。面出氏はやはり、建築、インテリア、ランドスケープの素材として期待を感じるという。
「建築の巨大な吹き抜け空間やアトリウムでは、青空や雲が見える透明な天窓やハイサイドライトが期待されます。ここに『RAYCREA』を用いると、昼は空を透過し、夜には美しく発光する面を生み出すことができそうです。また屋外使用が可能になれば街路灯のデザインを大きく変化させられるでしょう。そして変化の時期にあるオフィス空間では、空間を仕切る光のパネルや小単位のパーティションとしても展開が考えられます。近い将来、建築やランドスケープに光が組み込まれていくことが予想されます。そこに『RAYCREA』を用いるには、光学的な特徴に加え、サスティナブルな素材としての堅牢性、サイズや光量、光源部の改良など、さまざまな要件をクリアすることが求められます。また実用的な製品展開を考えると、必要光束や配光制御技術などの光学的な性能のさらなる実証が必要となるでしょう」
ともに面出氏が自主企画でおこなった展覧会『Nightscape 2050 —未来の街—光—人』の会場風景から。未来の光はどうあるかを考察した内容で世界を巡回した。
未来を思い描き、デザインすべきだ
面出氏は、光の未来を思い描くなかで「ビジョンを持たねば、素晴らしい未来は期待できない」と断言する。面出氏率いるLPA(Lighting Planners Associates)は、2015年に展覧会『Nightscape 2050 —未来の街—光—人』を世界巡回させた。これは2050年の夜景をテーマとし、光のもつ文化的な側面、表現の可能性、技術的な効率性など、さまざまな視点から人々と光がどのように付き合っていくのかという考察、つまりビジョンを提示するものであった。
「2050年にわたしは100歳を迎えます。それくらい先の未来には予測のつかないテクノロジーの進化もあるでしょう。もしかすると『RAYCREA』をきっかけに、光の制御方法はもっと進化しているのかもしれません。私たちデザイナーは日々発展する技術をデザインに取り込みますが、そこに未来へのビジョンをどう描くかがが問われます。つまり、生活をどう豊かにしていくかという意思が重要です。『RAYCREA』が、私たちの未来に可能性を示してくれるような進化を果たすことに期待しています」